ツアー2日目、ティンプーにある私立の学校、Druk School副校長、D.B. Rai氏に話を伺いました。Pre-Primary (PP)から8年生までのクラスがあります。日本でいうと幼稚園年長から中学校まで。以下、そこでのインタビューをまとめたものです。
Druk Schoolのオフィス棟
1. 言語教育
教育において用いられる言語は英語。加えてゾンカ語も使われている。1975年より前は、特に南部で必要があったのでネパール語も使われていた。しかしそれ以降は英語とゾンカ語に、特に英語が中心になっていった。
近年、政府はゾンカ語に力を入れる教育方針を打ち出し、その導入を進めている。しかしそれには時間がかかる。なぜならゾンカ語は教育の言語としてまだ開発されていないからだ。
ゾンカ語は古い言葉であるため古典と口語しかない。Dzongkha Development Commission (DDC)という委員会が、ゾンカ語で科目を教えられるようにするための取り組みをしている。しかしそれにも限界がある。科学や数学をゾンカ語でどうやって教えるのかという問題があるからだ。ゾンカ語の授業は月曜から金曜、週に5時限ある。1時限は1時間。
7年生のクラス
2. 環境教育
ゾンカ語で教え始めるようになった最初の科目は環境教育。EVS (Environmental Studies)と呼ばれる。週に5時限ある。EVSが導入されたのは1999年。もともとは英語で行われていた。まだ完全にはゾンカ語に移行していない。
EVSはPPから始まり、3年生まである。4年生から6年生までの間、EVSは理科や社会と統合されて行われる。7年生になると地理や歴史に取って代わられ、EVSはなくなる。
EVSではローカルな環境にまつわることを学ぶ。地元の動植物のことなどだ。植物園に行って学ぶフィールドワークや、野菜の栽培、調理といった実習もある。
Pre-Primary クラス(幼稚園年長相当)の英語の授業。数の数え方のレッスン。
3. GNHプログラム
GNHプログラムはまだ始まったばかり。全学年で実施されている。この学校では「Assessment of GNH Social Trait」という評価ツールが用いられている。毎日ではなく、年に数回、評価シートに記載されている期間に行われる。12個の人格特性、「1.礼儀正しい」「2.自信がある」「3.誠実である」「4.素直である」「5.時間を守る」「6.責任感がある」「7.規律正しい」「8.主張できる」「9.ユーモアがある」「10.進んで仕事をする」「11.慈悲深い」「12.身なりが整っている」が評価シートに列挙されている。
それぞれをAからEで評価し、そして最後の項目「幸せの程度」を3段階で評価する。これらの人格特性の項目は教師の話し合いで決定されたものであり、今年度はこれに基づき実施されている。
この評価を生徒自身、保護者、教師の3者によって多角的に行う。それぞれの評価を突き合わせ、話し合うことでやっと生徒の状態を理解出来る。もしそれぞれの評価にギャップがあるなら何か問題があるかもしれないということだ。
GNHプログラムの授業では、教師はまず「今日、あなたの幸せの状態はどうですか」と生徒たちに聞く。生徒たちは自分で手を挙げる。「とても幸せだ」とか「あまり幸せではない」と答える。そして議論をする。「なぜ幸せか」「何を幸せだと感じるか」。すると「幸せじゃないのは母が病気だから」といった理由が出る。教師は生徒とこうしたコミュニケーションをとることができる。
幸せの状態と、成績の評価は切り離されている。評価に真面目に取り組んだかで生徒のGNHプログラムの成績は評価される。
GNHというのは簡単に評価できるものではなく、非常に広い領域にまたがっているものである。GNHプログラムの成果は、教育全体の成果との関係で評価しなければならない。
4. 生徒のモチベーション
1980年代頃から政府は村へ人を送り、子どもを選別して学校へ通わせていた。その当時の多くの両親は子どもが学校へ行くことに反対していた。その後、親たちが非常に熱心になり子どもをみんな学校へ通わせるようになった。今、子どもたちはどうかというと、一度学校へ来ると家に帰りたがらない。いつまでも学校にいたがるため教師は帰すのに大変。唯一の例外は学校に通い始めたばかりのPPクラスの生徒。しかし1、2週間経つとみんな学校が好きになる。
[感想]
Pre-Primary (PP)の英語の授業を見学した。幼稚園年長ぐらいの子どもたちが楽しそうに英語の歌を歌ってくれた。ブータンの商店では、どこでも英語で買い物ができた。あらためてゾンカ語に力を入れようというぐらいだから、これまでのブータンにおける英語教育の取り組みは目覚ましいものがある。
環境教育の授業内容としては、おそらく日本でも総合学習のような形で同様のことが行われていると思う。違うのはその位置づけだろう。科目として独立していることから、環境への関心が強い子どもを育てたいという国としての方針が明確に打ち出されている。
GNHプログラムでは、評価を表す言葉として一般的な“evaluation”、成績表などの評定で用いられる“valuation”ではなく、“assessment”という言葉が用いられている。この言葉には、評価の結果をそのまま価値判断に結びつけるのではなく、検討のための情報を収集するというニュアンスがある。評価シートによる評価は、あくまで子どもと両親、教師との間のコミュニケーションのツールであることの表れかもしれない。
日本でも「心の教育」をどう実践するかが課題になっている。両親も巻き込むこの学校の取り組みは参考になるだろう。
この学校で行われているGNHプログラムは、他の学校でも同様に行われているかは分からない。しかしブータン教育省の科目研究開発局はGNH教育のガイドブックを作成している。GNHの理念を教育のカリキュラムに組み込む取り組みは、ブータンで今後も進められていくだろう。
ブータンGNHツアー2011参加者・大沢望
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