2011年10月14日

利便性とGNHのはざまで〜野生動物保護局長官のインタビュー

ブータンGNHツアー2日目。ティンプー市内の宿泊ホテルにて、農業森林省 森林公園野生動物保護局長官ソナム・ワン氏の話を伺うことができました。以下は、そのときのお話をまとめたものです。


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人間と野生動物の衝突

人間と野生動物。国家として、どちらかだけを重視する訳にはいかない。国土の50%が保護地区であるが、そこは住民の居住区域、日常生活をしている場でもある。双方にとってインパクトがあり、問題が発生する。

ブータン虎は、植物連鎖のトップに位置する重要なもの。ブータン国民にとって虎は崇めるべき大事な動物であり、守らなければならない。虎を保護するためには、居住者をそこから移住させなければならず、その移転にかかる多額な費用を捻出するための投資もはじめている。

WWF、NGO とも協力しているが、考え方には相違もある。これは行政としての大事な役割であり、その為の憲法も法律も存在する。それを守るのが国の役人の仕事。軋轢も生じるが、国策としての優先順位を決定するのは政府の仕事だ。

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ハイウェイ敷設論争

ブータンには国内に10 の省庁があり、その一つに農業森林省がある。そして全国には20の県がある。現在西から東側へ行くには4 日間を要する。各々の県の力は強く、都会と田舎とでは考え方も大きく相違するが、全ての村にハイウェイを拡張、敷設する話が出ている。

構想では、ハイウェイが完成すると西から東へ2 日間で移動できるようになる。経済のためには必要かもしれないが、環境アセスメントの結果、NO と云われると、簡単に進められない。

人口は東部の方が多く、また、西部は隣国チベットの影響を多く受けている。不便な地域からは「一刻も早くバイパスを通して欲しい」という要望もある。既存の100キロ道路は国立公園内を通っているが、更に100キロ道路を作るとなると、保護区内に敷設せざるを得ず、森林公園局としては極力反対の意向を示している。

36キロ圏内には虎の他、非常に貴重で重要な野生動物が多く生息している。国策としてハイウェイ敷設が決まれば、動植物は保護できなくなり、非常に大きな問題が残る。ブータンは今、分岐点に立たされている。

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民主主義とGNH

第4代国王がGNH(国民総幸福) を表明した。GNH の一つの柱が「自然保護」である。新憲法でも最低でも国土の60%は森林が占めることを定めている。現状は、選伐採はするものの、植林はまったく行っておらず、国土の80%は自然林である。

民主主義国となって3 年が経過し、国内は大きく変わってきた。世界の仲間入りをすることになったが、更にここで他国の失敗からも多くを学ばなければいけない。「道路」の拡張話も資本主義による、経済を優先させた結果、起きたことである。

木材・機器類の調達は、全て森林省の木材公社が管轄し、資源計画を練るが、うまく供給が賄えていない実情がある。政府機関の建築物のみ、国内企業の入札制度で行われる。インドとの合弁事業で建設できるのがホテルや水力発電(貯水池式)。特に水力発電はインドへ輸出できる貴重な収入源となっている。

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首都でも建築ラッシュが続いている。ブータンでは、個人の家は全て自己完結で建てられる。ブータン人が基礎的設計を行い、行政認可を得た後、建設が開始される。木材は国内産を、他の部材はインドから仕入れて、インド人に作業させる。インド人の方が建築に関して専門的なスキルが高いためだが、このことがブータン人の失業率を高くしている。一方で、工芸職人はGNH政策のもとで常に守られており、職人ならば誰でも家を建てることができ、誰でも伝統様式を描くことができる。

失業はあるのに労働は不足している。都市への人口流出が止まらず、政府としてはUターンを進めているが、うまく機能していない。コミュニケーションを改善し、田舎労働の発想で、働き手を地元に戻し、橋づくりなど、現金収入を得られる環境を作りたい意向はある。また、少ない機材を協同組合方式で皆が使いあう仕組みも検討したい。

「信教は自由」と法律にも明記され、実際他宗教信者もいる。しかし、生活環境全般はやはり多くが仏教に帰依している。民族衣装は儀式など決められた際に着用するものであり、日常は自由。その他民主主義としての自由は守られている。


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感想

この日の朝、ガイドのペマ氏が、家畜の馬と牛を虎に殺された村人が、虎を銃殺し、皮を剥ぎとったところ警察に逮捕されたという話をして下さった。内心、疑心暗鬼で聞いていたが、長官のお話で納得がいった。まさしく、虎は大事な獣であった。

こんなに自然が素晴らしく、可愛い子供達や純朴な方々の住む国が、今後、経済優先策、そして失業問題等、日本の轍を踏まないように、と願うばかりである。今の日本人の多くが失ってしまった「衆生の為に祈る…」という心は、日本でも再生できるのか、もう無理なのか・・・。

私自身は足るを知り、利己を捨て利他の心で生きていくことを目指したいと思っている。

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ブータンGNHツアー2011参加者・向達公子
posted by GNH at 10:59| Comment(0) | GNHツアー
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