2011年10月22日

患者の身体と心に寄り添う〜ブータン伝統治療院訪問記

ブータン入りした初日の夜、私は異国の地で38度の熱を出しました。日本から持ってきた暖かい上着を全て着込み、ツアー参加者の方に頂いた漢方の薬を飲んで、ホテルのベットの布団にくるまって、沢山の汗をかきながら「何とか熱が下がって、旅を無事に続けられますように」と祈っていました。ブータン初日に熱を出すなんてトホホです。

日本ではほとんど風邪をひくこともなければ、薬を飲むこともないのに・・。でも、この熱は今まで身体に溜まっていた沢山のものが、ブータンの大地と共鳴して私の身体から吐き出されている毒出し・浄化なのだと、ホテルの暗い部屋で熱にフーフーうなされながらも、そう感じていました。
 
翌朝、熱は37度まで下がったものの、前かがみでなければ歩けないほどの腹痛におそわれました。
しかし、今日の旅のスケジュールは、楽しみにしていた『伝統治療院訪問』だったので、前かがみにお腹をさすりながらバスに乗り込み、ツアーに参加しました。

伝統治療院に到着し、ガイドのペマさんや辻先生から、ブータンの医療はインドのアーユルベーダや中国の伝統医療の影響も受けているが、チベット医療が基本になっていること、西洋的な医療が若い人の間で人気になってはいるが、伝統的な医療の大切さも認められ、ブータン国内では西洋医療と伝統医療は同等に扱われており、医者の給料も同等であること、薬に使われている薬草は地のもの(高山で採取)が使われていること・・・などのお話を聞かせてもらっている中、私のお腹はいよいよ痛くなり、その場にしゃがみ込んで話を聞くありさまでした。

伝統治療院1.jpg


そんな私の姿を見かねて、辻さんとガイドのペマさんのご配慮で、なんとこのブータンの伝統治療院で診察をして頂ける事になりました。ブータンでは医療費が無料なのですが、驚くことにブータン国民だけでなく、旅行者も医療費が無料だというのです。 ペマさんと通訳のマイちゃんと共に診察を待つブータンの人々をかき分けて、治療院に並ぶいくつかの小さな部屋(診察室)のひとつに入りました。

診察室は外の強い日差しとは光の感じが全く違う、少しひんやりとした薄暗いとても静かな部屋でした。部屋では小さな女の子がお母さんに抱っこされて診察を受けている最中だったのですが、私たちが部屋に入っていくと立ち上がって席を譲ってくれました。私が診察を受けている間、物珍しそうな表情を浮かべて、小さな女の子も静かに診察が終わるのを脇で見ながら待っていてくれました。

診断をして下さったのは、ガイドのペマさんと同じ名前のペマさんという女医さんで、この病院の創設者の娘さんでとても有名な先生だということでした。この二人のペマさんは幼馴染だそうです。

伝統治療院2.jpg


女医のペマさんはとても穏やかな口調で、いくつか私に質問をされました。
「昨日と今日、食事はとりましたか?」
「どのようにお腹がいたいのですか?」
「お腹のどこがいたいのですか?」

その他、便について、熱についてなど質問をされた後、人差し指・中指・薬指の三本の指で静かに、そして長い間、私の手首の脈拍を診断されました。脈を見た後に「腸と胃は正常に動いているが、旅での環境の変化やストレスから胆汁の分泌がうまくいっていないようです。」と診断されました。

「胆汁?!」思いもよらない診断に驚きました。そもそも「胆汁」などという日本語でもよく分からない言葉を訳してくれた、通訳のマイちゃん、本当にどうもありがとう。

そして、女医のペマさんは机の引き出しからある薬を取り出して「この薬にはとても自信があります。もう大丈夫ですよ。」と言って、この薬を毎日6錠ずつ飲むようにと小さな袋に薬を分け入れてくれました。

伝統治療院3.jpg


この薬以外に、後3種類、外の薬局で薬をもらうように言われ、それらの薬の飲み方などを説明して下さいました。ガイドのペマさんもガハハと笑って「良かったですね。もう大丈夫」と言ってくれました。

ブータンの伝統治療院で診察して頂いて一番印象的だったのは、とても静かに患者に語りかけ、そして、ゆっくりとこちらの話に耳を傾けて下さったお医者さんの患者に対する姿勢でした。外国で体調を崩した不安の中、女医のペマさんから出ている静かで柔らかなそのオーラのようなものに包まれて、私はとても安心した気持ちになりました。もうそれだけで半分以上症状がよくなったようでした。

あの、診察室の扉の向こうは、とても静かで心が穏やかになる世界が広がっていました。患者一人ひとりの心に寄り添って、患者の話に耳を傾け、不安を取り除いてあげるという基本であり、かつ、大切なお医者さんの姿勢を見せて頂けた、とても貴重な経験でした。

後日談ですが、ペマ先生が「明日以降このような症状が出るでしょう」とおっしゃった事が本当に私の身体に起こり、「この薬は自信がある」と言われていたとおり、薬が効いたのか腹痛は治まり、おかげさまでその後のブータンの旅を無事に続けることができました。

伝統治療院4.jpg


処方された丸薬は、日本の正露丸の3倍ほどもあるような丸薬で薬を飲むたびに「んぐっ」と喉を詰まらせそうな大きさで、独特の香りのものでした。薬嫌いで、日本でこの前薬を飲んだのはいつだったか思い出せないほど、めったに薬を口にしない私ですが、何だかブータンの伝統治療院でもらった薬はお守りのようで、毎日薬を飲むのが楽しみなほどでした。

伝統治療院でガイドのペマさんが「Ai Shimada(アイ シマダ)・・・(私の名前)」は、ブータンのゾンカ語の発音で「どうか死なないで下さい」という意味の丁寧語だと笑って教えてくれました。その言葉を聞いて私は、「そうか、・・・生きよう」とブータンという国に命を新たに吹き込まれたようで、頂いたその偉大なメッセージに手を合わせました。

GNH、ブータン国民が幸せだと感じる基盤のひとつに「医療費が無料」という、生きていく上での安心感が少なからず作用しているのではないかと、今回の経験から感じました。

ブータンGNHツアー・2011秋参加者・島田愛
posted by GNH at 11:49| Comment(0) | GNHツアー
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