於:プナカキャンプ場
2011年8月30日
プナカ県知事のお話
プナカは、ブータンの首都がティンプーに移る前、ブータンの首都でした。母なる川であるモチュと、父なる川であるポチュという豊かな自然に恵まれた美しい町です。2011年はこの川の合流点にあるプナカゾンで行われる、第5代国王のロイヤルウエディングという大切な事業も控えています。
皆さんは、都会であるティンプーに行かれたと思いますが、いまでもブータンは70%が農村で、人口の90%が農民です。農村がブータンだと言っても過言ではありません。 基本的に農民は自給自足です。食べ物を人々が豊かに生産できる事によって、ブータンはフードセキュリティーがしっかりしており、それが人々の安定にもつながっていると思います。
農村の人々には「他人の顔に、ほほえみがあるのが幸せ」という考え方がいまでも残っています。人々は「足る」を知り、謙虚な美しい心を持っています。私はこれがブータンのGNHの指数が高い理由だと思います。
私は今、プナカの県知事をしていますが、私の仕事は、農村の人々の幸せのために村民の僕となって働くことです。日々「民に仕えるもの」になるために努力しています。この「民に仕える」という考え方は、現国王から得た言葉です。第4代国王が就任されたとき、国王は人民にこのようなスピーチをされました。
「私は国王に就任しましたが、国王のように暮らしたいとは思っていません。この国のすべての人々のための僕となりたいと思っています」と。私はその言葉に感銘し、私もプナカの人々の為の僕になりたいと思い働いています。そして、多くのブータン人と同じように、私自身も人として自分の内面を高め、善き者になりたいと、努力しています。
さて、今わたしはプナカの知事をしていますが、その前にはブータンの他の4つの県の市長をしておりました。その意味で、プナカだけでなく、ブータンについてもお話しさせて頂くことができればと思います。
ブータンは20の県からなる国で公園のように美しい国です。オーガニック農業も盛んです。これは、他の国とのアクセスが悪い事が幸いし、化学肥料などをあまり取り入れなくて済んでいるからです。またプナカの近く、「ガサ」という県では、この10年間、ガサ市長がオーガニック農業を推進してきました。
そのおかげで「ガサ」はオーガニック県になりました。私もプナカをこれからオーガニック県にしていきたいと思っています。ここは農作物が育つ温暖な気候に恵まれており、私はここが簡単にオーガニック化すると思っています。いまでは、世界中でオーガニックの大切さが理解されてきています。ブータンでは、これから国土全体をオーガニック化する決意を議会で意思を固めているのです。
ブータンはGNHが一位であると言う事で、世界に知られていますが、なにも私たちが世界中で一番幸せな国というわけではありません。私たち国民一人一人が、世界で最も幸せな国になろうと努力している国なのです。
記録:ブータンGNHツアー2011秋参加・杉田菜生子
==質疑応答==
Q. 知事にとって、ブータンの「美しさ」とはなんでしょうか?
知事:ブータンは自然環境に恵まれた美しい所です。その中でも強いて一つあげるとすれば、それは私たちの前を流れる、母なる川「モチュ」だと思います。この川は人間のみならず、動物、そして、農作物へ水をもたらし、私たちに豊かさをもたらしてくれます。恵みをもたらしてくれる川にブータンの人々は感謝しています。そして、なによりも、この自然環境を守る国民一人一人の美しい心が、ブータンの一番の「美しさ」だと私は思います。
Q. GNHの4つの基本理念の中に「豊かな自然環境の保全と持続可能な利用」、「文化遺産の保護と伝統文化の継続振興」がありますが、それは人々の幸せにどのように関係しているのでしょうか?
知事:環境を守る事は、GNHにとってもっとも大切な要素です。なぜなら、自然環境は私たちが生存していく基盤だからです。この自然が守られているおかげで、私たちは良い空気を吸って健康に生きていけます。私たちを養ってくれる食べ物は、すべて自然からもたらされているものです。自然は動植物の豊かさを支えてくれています。自然なしでは、私たちの幸せはありえないのです。自然環境を守っていく事は、私たちの幸せにつながっています。
文化を守ることの大切さは、ブータンに限らず世界中のどの文化もとても大切なものです。ブータンがブータンである理由はなぜでしょうか?それは私たちに固有の文化があるからです。文化は私たち国民一人一人のアイデンティティーにもつながっています。 ブータン人にとって、私が私である所以が、ブータンの伝統文化なのです。
ブータンは 中国やインドという超大国に挟まれた、 外国に比べてとても小さな国です。このブータンが、諸外国に押しつぶされず、ブータンという独立国家でいられたのはなぜでしょうか? それは、私たちに伝統文化があったからです。 私たちはブータン人であることを伝統文化を通じて、ひとりひとりが自分が誰であるかを理解するのです。
ブータンは、大きな地球から見れば、点のように小さな国にすぎません。それにも関わらず、この国に多くの人が訪れてくれるのはなぜでしょう?このブータンには、自然が豊かに残っている、ということもありますが、それに加えブータンの伝統文化の価値が重要であるからだと私は思います。ですから、GNHを高め、個人が幸せになるためには、環境と文化がとても重要なのです。
Q.農村を訪れたときにゴミが放置されているのがきになりました。知事はゴミの問題についてどうお考えでしょうか?
知事:ご指摘されたように、ブータンではゴミ問題は現在重要な課題になっています。ゴミは主にインドやバングラディシュなど外国からの輸入品のパッケージとしてブータンにもたらされています。それまで、ブータンではプラスチック製品はありませんでした。
人々は物は全て、オーガニックで朽ちれば土に還るものを使っていたので、プラスチックが土に還らずいつまでもゴミとしてある、ということを理解できていない、または実感していない人々が、まだいる事は否めません。この問題については、教育が重要になっています。私もゴミの問題に取り組んでいます。
Q.今回初めてブータンを訪れてみて、日本の原風景とも呼べるような、昔の日本によく似ていて懐かしい国だと思いました。日本では近代化によって、開発が進み、自然環境は文化も失われつつあります。そして地震災害に伴い、311に原発事故も起こしてしまいました。私たち日本人になにかメッセージをいただけますか?
知事:ご質問の通り、私も日本そして日本人の方々に大して、深い親近感を持っています。ブータンと日本は距離は離れていますが、多くの類似性があり、深い縁があるように思います。 大昔、ブータン人と日本人は同じ民で、地球規模の大きな災害が起きたときに、それぞれ分かれて暮らすようになった、という説を言う人もいます。ですから、ブータン人も日本に対して深い親近感を持っているのです。
今回311の災害で、ブータン人も大変心を痛めました。国王をはじめ多くのブータン国民が、日本の為に全国民が祈るという事を国を挙げて行いました。日本の復興の為に基金をつのるキャンペーンにも取り組み、今も続いています。私が日本に対してしてアドバイスを言えるようなことはないのです。私には、日本の幸せを祈ることしかできません。でも、強いて1つだけ挙げるとすれば、どうかこれから「原子力から、手を引く。使うのをやめる」ということをやってほしいと思います。
Q.人々が幸せになった後にはなにがあるのでしょうか?幸せのその先がわかりません。教えてください。
知事:人々がある程度の条件を満たせば、幸せは持続すると思います。
Q.ブータンでは近代化に伴い、テレビメディアが導入されています。テレビは人々に悪影響を与える部分があるとおもいますが、その点についてはどうお考えでしょうか?
知事:ブータンでは1998年にテレビが導入されました。その際に、国王は「国民の皆がテレビを求めているので、私は導入に踏み切りました。テレビには、良い効果がありますがそれと同時に悪い効果もあります。どうか、皆さんテレビの悪い効果をはねのけてください」と懸命に演説しました。
テレビの影響によって、幼い子供は悪い行動を起こしたりします。テレビが導入されて、親は教育の苦労が増えたと思います。
Q.知事ははじめに、自分自身を高めて人として善い者になりたいとお話しされました。日本の政治家は選挙時に「国が良くなるため、国民が良くなるため」に努力をしますが、人として、自分自身が善くなるようにと、努力している人はあまりいません。知事にとって、ご自身の内面を高めていく、とはどのような事なのでしょうか?
知事:日本と違って、知事は選挙で選ばれるのではありません。ブータンでは知事は任命制なのです。ですから、自分は選挙をしたことはなく、人々に任命され、プナカ市民の公僕として村民の僕となって働くための仕事をしています。
さて「自分自身をたかめる」、人として成長する、ということは、ブータン人皆がめざしていることです。仏教を通して、人々の為に尽くすことで自分自身を高めていくこと、それを目指すことが「自分自身をたかめる」基本です。
自分を高めていく事が幸せにつながっている事を、ブータン人は知っています。私は知事として日々働いていますが、なにも財産は持っていません。土地も家もビルも何も持っていません。自分自身の仕事を持ち公僕として仕事を行い、私個人の物質的な富を求めることはしてきてはいません。
だから私は幸せなのです。私は、何一つ失う物はありません。 得た物を失う事を恐れる事はないのです。最後に、みなさんが心に謙遜と、顔にいつでも微笑みがあるように、どうぞ他の人々と仲良く幸せにくらしていけますように。
2011年11月18日
自分を高めることが、幸せにつながる〜プナカ県知事のお話
posted by GNH at 11:42| Comment(0)
| GNHツアー
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