■何事も「GNHのレンズ」を通してみる
GNHの指標化するための9つの器は、120の小項目で構成されています。「GNHのレンズ」という言い方をしていますが、どんな領域、分野を考える時も必ず、GNHのレンズを通してみるようにしています。例えば、環境問題に携わっている人は、森林を切るということは、GNHのレンズを通してみるとどうなの?と。あるいは、ある場所でトンネルを掘るときに、それはGNHレンズを通してみるとどうなの?という風に。
一方、いろんな役所や省庁がやろうとしている政策があります。それらがGNHに照らしてどうかチェックするためのポリシー・スクリーニングも行っています。
先ほどの120ある項目を26くらいのブロックにまとめ、そのひとつひとつに1〜4点の点数をつけます。1点はネガティブなスコアです。2点は少し不安、3点は中間(どちらでもない)、4点はポジティブ(良)なスコアです。国民対象の調査は120の全項目やりますが、政策をスクリーニングテストするときには26のブロックで行います。
26の項目のひとつが「ストレス」です。その政策が人々に与えるストレスについてはどうかという問いに、人々にストレスを増やすというネガティブな評価が下されれば1点です。増やすかもしれないは2点、ストレスを与えるとは言えないは3点、むしろストレスを減らすは4点というふうに点数がつけられます。
26項目すべてで4を取ると満点で合格です。2点以下が続くと通りません。GNHのレンズを通してみて不合格という結果になります。104点満点で、合格点は78点です。
スクリーニングは、担当の省庁や部署と同時にGNHコミッションも行います。実際にこのテストを経て、再生可能エネルギーや農業に関する政策がつくられました。
通ったときの例としてお話しますが、経済省の評価は86.46点。GNH委員会の評価は83.40点でした。3点以下だったものは「平等性」でした。腐敗につながらないかということ、司法的な公正さ、性別における公正さ、そして「ストレス」の項目です。26のうち、この点において、改善が求められました。条件付きの合格ということです。3点以下の項目が改善したうえで、この政策は認められます。
結論としては、マニ車が回るような感じで循環ができればいい、と言えます。GNH指標が助けになって、本当の意味での進歩や発展への道筋を示すコンパスになればいい。政府が行う政策やプログラムなどでいいものができれば、個人やコミュニティ、社会全体にいい影響を与えていきます。そうするとGNH指標が上がって、そしてまた社会が進むべき道がはっきりしていく、そういう「いい循環」ができあがっていくことを目指しています。
<質疑応答>
Q、電化政策について。電力量が上がればGNH度があがると考えるか。自然エネルギーの中に水力発電が入っているのか。
A、ひとつ知ってほしいのは、先進国がこういうことをしているわけではないということです。まだ貧困ライン以下の暮らしの人がいる発展途上国の、全家庭への電気の供給さえもできていない段階にある国で、できるだけ海外から経済的に自立していく、その政策の範囲内での供給の増加だということです。その意味では、電力を増やしていくということは、今のところ、人々のGNHの増加といえるといっていいという考えです。
水力発電が環境への重大な脅威になっていることはないと考えます。中国で聞くような巨大ダムの建設なんていうものをつくるということもありません。他の国に比べたら、ダムとは呼べないほど環境へのインパクトの少ないものです。基本的には、流れる水をパイプに入れ込んで落とす方式(入れ込み式)がほとんどで、トンネルをつくって、ある程度の水がたまるということはあるけれども、谷間を水で埋めたり、あるいは貯水池を作るために穴を掘ったりするということはありません。その意味で、再生可能なエネルギーと考えていいと思っています。
Q、食べることとGNHのつながりについて。今後の発展のなかで、食の欧米化やグローバルな食に関して規制などしていくのでしょうか?
A、食に関してはふたつの大きな柱があって、ひとつは、食がいきわたるという量の問題です。いきわたらなかったら輸入も必要です。もうひとつの側面は自給率をあげること。このふたつは実は矛盾します。自給率をあげるという方向に関してですが、前はローンを組むというのを、たいてい建物を建てるのに使ってきましたが、今度は農業をベースにした新しいビジネスをつくっていくのに、いろんなローンをだしています。もっとビジネス感覚をもった農を実現させようとしているのです。
その場合に一番大事だとされているのが有機であるということです。しかしこれもまた矛盾を抱えています。有機は質を高めるけど、量が減ってしまう。量を増やすだけだったら、もっと工業的にするほうがいい。でもそれをすると、インドにはかなわない。
そう考えると、有機のほうが太刀打ちできる。しかし今度は全体的な量が落ちるからインドに輸入に頼らざるを得なくなる。そういう矛盾を抱えています。重要な問題です。食の安全が脅かされるということは政府もわかっているし、わたしも本当にそう思います。
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