民泊に魅力を感じて、このツアーに参加したわたくし。ブータン中央部の首都ティンプーから標高3150mドチュ・ラ峠を越え、観光地プナカ・ゾン(城塞)を経、午後五時、クルマの走行実6時間ばかり、民泊の地・北部の僻村ガサのザンビ集落に到着。
国じゅうがきびしい山間にあるこの国。プナカまではまだよかった。それからのほぼ3時間、峻険な山を切り開いた、クルマ一台が通れるばかりの狭い山道を行く。右側は吸い込まれるような底深い谷の崖、左側はまた、覆いかぶさるように切り立つ崖。ブルドーザーで引っ掻いたなりの荒々しくも生々しい山肌を見せ、落石防止の吹付けも、防石の網も張られていません。ところどころ、道の真ん中に大きな石が転がっています。道の端を見れば、小さな石の群れが寄せ集められています。上から落ちてきた石なのでしょう。山肌を見上げれば、一メートル四方もある岩石が山肌から飛び出しながら、小さな石に支えられて留まっているのが目に入ります。ガードレール皆無の道から急角度の下に谷底を覗きこめばまた、クルマ酔いなどしている余裕はありません。
道は狭く、舗装なく、デコボコは激しく、曲折は多く、曲がり角では、沢筋に当たるのでしょう、水がザアザアと山道を横断して谷に流れ落ちています。その冠水する曲がり道をクルマはゆっくりと慎重にハンドルを切り、通り抜けます。運転は超一級。わたしたちの運転ならば、ザンビならぬゾンビ村行きだったでしょう。
さて、民泊です。わたしが泊まった家は、かの地の通例ですが、大きな家でした。家の内に水道もトイレもありません。家から下方約10mほどに水道菅が一本、大地からにょっきり木が生えているような恰好で、ありました。その家の若い妻が洗面器になみなみと水をたたえ、粗末な階段を上り下りし、家の内と水道を何度も往復していました。
トイレは水道から更に15mほど先、段差ある畑地のなかにありました。夜中にトイレに立ちたくなったわたしは、戸口を開けて外へ出ました。なんと、雨! 真っ暗です。外気はひんやりと冷たく、ダウンのジャケットを着、懐中電灯を灯し、段々畑のなかを行き、丸太で作った小さな階段状のはしごを這うように下りました。丸太は雨でヌラヌラし、滑りやすくなっています。右手は棒の杖で下方の地を刺し、左手は上方の大地をつかんで、わたしは身を支えました。傘をさす余裕はありません。そうしてまた、雨に濡れ、畑地の間を今度は上り、戻りました。
老人や病人など弱い者は暮らすだけで大変、と思いました。日本の現在のわたしたちの恵まれた生活は、先人たちの「知恵」の営為のおかげ、敬虔の念と感謝を捧げずにはいられません。そうしてわたしたちもまた、「知恵」の営為をたゆまず歩もう、と思わずにはいられません。「知恵」とは、生命の安全と、弱い者もまた楽しく安全に暮らすことのできる愛の行為です。
(2013年報告集より/報告者:篠田治美さん)
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2013年05月31日
民泊から/「知恵」は愛の行為【2013年春GNHツアー報告集より】
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| 2013春GNHツアー
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