2013年08月07日

焚き火トーク:オーガニックコットンをフェアトレードにする

<オーガニックコットンプロジェクトの展望>

辻:次にフェアトレードについて説明しないといけないですね。

石井:自給して消費しているところではフェアトレードという言葉は存在しないのではないですか。

辻:それはそうです。道筋を考えないといけません。もう少ししたら電気や道路が通ります。電気がきたら現金収入がなければ電気は使えません。そして道路が来ると、どんどんものが入ってきます。またテレビを通じて色々なコマーシャリズムも入ってきます。そうすると多くの現金収入が必要になってきます。

このまま何もしないでいくと、たとえばケミカルに農作物を作ってでも現金収入を得なければいけなくなってしまいます。それからこの村に現金収入を得る職がなければ、若者たちは現金収入を求めて外に出て行ってしまいます。そうすると過疎化して村はおじいちゃん、おばあちゃんだけになってしまいます。それでは村に将来はありません。これは世界中の村で起こったことです。日本でも見られます。

これから電気や道路が通ることによって必ずそういうことが始まってしまいます。若者がとどまって生き生きとしたコミュニティを作るには、先手を打って現金収入をともなう持続可能な経済を作っていく必要があると思います。僕は外にむけて商品作物(オーガニックコットン)をやることが必要だと思っています。

非常に危険なことをやっているのかもしれません。しかし僕にはそれ以外ないと思っています。「そんなに現金収入はなんていらない」「今までみたいに自給をやっていく」と言えればいいのですが、こんなことを言っても現実的ではないと思います。

カルマ:人口流失をなんとかしないといけないという意味ではいいアイディアです。

辻:外の市場とつながるということはものすごく危険なことです。ある意味戦争です。この小さな村が市場経済に巻き込まれて生き残ることは非常に難しいです。その時のためにフェアトレードというものがあります。お互いの状況を理解して、お互いを思いやれる経済の関係のことをフェアトレードといいます。

カルマ:すばらしいですね。村の誰もが賛成してハッピーになると思います。

明石:20年近くフェアトレードをやってきて生産者とつながりが重要だと思います。つながりのなかで少しずつ育んでいくものがあります。その関係はみんなフェアで確かなものだと感じます。

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石井:フェアトレードをファーマーの立場から言うと、ここでとれた綿を紡績屋に売るのか、最終商品まで作って売るのか、ここでどこまでやるかということが重要です。そこからが彼らのフェアトレードの始まりだと思います。彼らにしてみたら最後はどのような状態で売られているか知らないと思います。

辻:僕は文化の復活ということがすごく大事だと思います。年長者が中心になれるということはすごく重要なことです。今まで続いてきた織物まで含めて全体が再活性化するような方向でやるべきだと思います。

石井:私の意見は一番理想的なのは最終商品を買う人達が原料のところまで管理することだと思います。間にそういうことを気にしない人が入ってしまうとフェアトレードではなくなってしまいます。最終商品を買う人が原料から最終商品まで管理するか、ここで最終商品を作りそれをフェアトレードできれば問題ありません。よいリレーションシップを築く必要があります。

この村の人が一番先に売る先はインドの紡績工場なのかブータンの紡績屋なのかはわかりませんが、そこまでを明石さんみたいな立場の人が管理できたら間違いなくフェアトレードになります。

辻:そこで石井さんが活躍しなければいけません。中間をつなぐ役割をしてほしいです。チモン村の人々が最初からというのは難しいと思います。
僕は色々なパターンがあっていいと思います。最終商品まで作ってしまうのもいいし糸でだすのもあっていいし、布でだすこともあってもいいと思います。色々なパターンがあっていいと思います。

下條:カルマさんやペマのお父さんたちは、西側で起きている「除草剤」については知っているのですか。

辻:「我々はやっていない」と言っていたので、知っていると思います。

下條:やっていないということは、いいと思っているのでしょうか、それとも悪いことだと思っているのでしょうか。

辻:「我々はなんてラッキーなんだろう」と言っていました。僕が「遺伝子組み換えは神様が作ったデザインを変えてしまう神への挑戦である」「人間が神になろうとすることである」と言ったら、2人はわかってくれました。

(村の人がピーナッツを持ってきてくれました。もちろんオーガニック)
石井:ピーナッツをフェアトレードするのもいいですね。

辻:フェアトレードできるものはたくさんあります。乾燥しょうが、乾燥アマランサスなどいいですね。ブータンのGNHをブランドにして売ったらどうでしょう。

石井:最終的に店に置いてくれる人の一番立場が強いです。その人が商品を置くと言ってくれると、作り手にとって一番の保証を得ることになります。この村は比べるものがないので、オーガニックがいいと伝わりにくい。それと海外へ輸入したことのない人々にとって、フェアトレードというのは概念を理解することも難しいと思います。フェアではないトレードを知らないと、フェアなトレードを理解できません。

辻:フェアトレードというものを我々が理解しているように理解しないでいいと思います。

石井:私達が知っていればいいかもしれませんが、自由にやると必ずしもいい人たちばかりではないので知っておくほうがいいと思います。

辻:どうやっていけば一番いいと思いますか。今日村を回ってみて改めて驚きました。それはまだまだこの村の人は自然にものを作っているということです。割と若い世代までそういう文化を持っています。これは活かしたいと思いました。

石井:本人たちがこれからどうしたいということを尊重したいです。自分達が毎日とるものを外に売りたいのか、自分達が作るもので満足なのか、そこはまず本人たちが望むものや今後に対して希望しているものをサポート側としてやっていかないと、やらされている感を持ってしまうと思います。

辻:それは大事なことです。日本に入れる時は糸でより布ですか。

明石:布の方がいいと思います。布を輸入して何かとコラボレートするといいかと考えています。

辻:限られた量しかないのでよほど高級なものにした方がいいと思います。フェアトレードの商品は安いものが多いです。

石井:オーガニックでフェアトレードのコットンは高いです。なぜかというとFLO(国際フェアトレードラベル機構)の承認を得てさらにプレミアムを払わなければいけないからです。高いものだと競争ができなくなって、売りにくくなります。

いかに宣伝するかも大切です。イギリスではオーガニックよりフェアトレードのほうに力が入っています。オーガニックよりもフェアトレード製品のほうが安いくらいです。どうやってマーケティングするかも重要になります。それとフェアトレードの意味を日本国内にきちんと広めた方がいいです。貧しい人を助けるなど間違った意味でとらえている人が多くいます。

土井:承認マークがなくてもフェアトレードについて流れがわかっていれば、小売店が理念にのって意味をきちんと伝えていけばいいです。認証とるのは少しあとでもいいと思います。

明石:対話をしながらやるのがフェアトレードです。こちらからの押しつけではありません。最初から対話をしながら貿易をします。フェアトレードは、お互いの話し合いのなかで行われる貿易のことだと私は思っています。そのため各生産者によってパターンが違ってきます。

石井:チモン村でできるオーガニックコットンだけではかなり収穫量が限られると思います。たとえ来年タイミングよく植えたとしても、収穫量がかなり限られると思います。限られた量しかないので、最終バイヤーが「これを売りたい」「こういうものなら売れる」「こういうものをお客さんがほしがっている」とリクエストしたほうが良いのではないですか。限られた量しかとれないということがある意味プレミアムになり、みんながwinなれると思います。

明石:大量生産はできません。それしかできないと思います。

辻:2014年3月にフェアトレード世界会議が熊本であります。熊本のデザイナーや仕立屋に頼んでそこに向けて何か商品を出せるといいですね。初のブータン発オーガニックコットンの商品をそこに向けて仕掛けてみたらいいと思います。

明石:自分達の考えたルールで、それをフェアトレードという言い方をして新しい形の取引、貿易をやればいいと思います。

辻:それと、ブータン国内に、たとえばティンプーにギャラリーを作って、それを世界中からくる旅行者に売ればいいと思います。この2本立てにしてまずはやってみましょう。

石井:それにはティンプーで売る人にほしがらせる必要があります。

辻:ティンプーにはペマの強力なネットワークがあるので大丈夫です。

辻:どんな形で日本にだしたほうがいいと思いますか。

石井:最終的にチモンの人たちは何が売りやすいのか、何で売り出したいかによるのではないでしょうか。
最終商品をなににするかで、編むのか織るのかでも違ってきます。収穫後の流れを決めないといけません。「織ったのでそれで何か作ってください」だと売る側も難しいです。

売れないと広まらないし、次の年にもつながりません。売りやすいもの、売りたいもの、お客さんがほしがっているものを具体的に出していったほうがよいと思います。

川島:フェアトレードの、体を洗うオーガニックコットンのタオルがほしいです。石鹸を使わなくてもこするだけでいいタオルがあると聞いたのでそれがほしいです。オーガニックなので使い終わった後、土に帰せます。

石井:そういうものを明石さんや土井さんにリクエストしてください。循環させないとサスティナブルではなくなってしまいます。

辻:こういう新しいところでは値段はどうやってつけるのですか。

石井:普通は商品取引所で「1sいくら」と決まります。チモン村はそういったシステムに関わっていないですよね。

辻:フェアトレードはそのシステムに関わらないということです。市場とは別に価格を決めようというものがフェアトレードです。

石井:チモンの人たちに価格を決めてもらってもいいですよね。

辻:彼らには価格はわからないですよ。お互いに話し合って価格を決めていくことがフェアトレードです。

焚き火トーク:オーガニック・コットンプロジェクト

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2012年11月、東部ブータンツアー報告集より。

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村の助役のカルマ・ワンチュクさんと村のオーガニックコットン責任者のペマのお父さんを囲んでオーガニックコットンプロジェクトについてディスカッションをしました。また昨日聞けなかった村の生活についても伺いました。この話し合いの時昨日来られなかった村の人たちがぞくぞくと私たちを歓迎するために色々なお土産をもって次々に訪ねてきてくれました。

私たち一人一人に村の女性がキャッサバやピーナッツ、卵、みかん、アラ(ブータンのお酒)などを持ってきてくれます。そのなかの女性の一人が一言「私たちには何もなくこれしかありません。ぜひ受けとってください」と言ってくれました。

ここで出してくれているものはすべて買ったものではなく村の人が持ちよってきてくれたものです。食事の後は、ツアー参加者と村の人たちと火を囲み、ブータンの歌を歌い、その歌に合わせてみんなで踊りました。

<カルマ・ワンチュクさんの紹介>

カルマ・ワンチュクさんは村長の次の位の助役です。ここでいう村はチモン村だけではなくこの地域の5つの村をあわせた村のことをいいます。これを「ゲオック」と言う行政区分になります。ゲオックは日本でいう郡です。そのゲオックの助役です。ブータンでは助役のことを「マンガ」村長のことを「マンガップ」と呼びます。

Q.オーガニックコットンプロジェクトついて今は何人かの有志で試験的にやっていますが、村全体のプロジェクトになるといいと思っています。印象はいかがですか。

カルマ:オーガニックコットンに関して実は新しいことではありません。我々が昔から長々と伝統を持って行ってきたことですが、いつの間にか忘れて廃れさせてしまいました。そしてそれを無視してきました。このプロジェクトは文化の復活という意味で重要だと思います。しかし自分自身はコットンを育てていた時代を知りません。そういうことで少し自信がありません。(註:カルマさんは38,9歳)

Q.どうしてこの伝統が廃れたと思いますか?

カルマ:理由はよくわかりません。しかし、ペマが言っていることなのできっといいことだと思っています。私はこの村でコットンを作っていたことを全く知りませんでした。この話がでて驚きました。

<石井朝子さんから国際的にオーガニックコットンを栽培する意味を説明>

石井:私はインドを中心にオーガニックコットンの生産者とともに作ったものを世界の市場にむけて生地や服として広げていく仕事をしています。まず、世界の市場を考えるとコットンは95%が遺伝子組み換えです。4%が普通の農薬や肥料を使った方法で作られ、残りのわずか1%がオーガニックというのが現状です。

正確にいうと1%以下です。地球上に育てられているコットンのなかで1%以下しかオーガニックコットンは存在しません。オーガニックコットン栽培することは地球的規模でみてもものすごく貴重なことです。

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<辻信一さんから遺伝子組み換えの種(GMO)について説明>

辻:コットンの場合は食べ物ではないのですごく広がりました。虫に強くすごく強力な除草剤に耐えうるコットンを作りました。飛行機から除草剤をまくとほかの草は死にますがコットンだけ生きています。こうしてモンサントは種や除草剤を売って儲かる仕組みを作りました。これが色々な問題を引き起こしています。

一つの問題は環境汚染です。除草剤をたくさん使用しているので多くの人々が病気になり死にます。もう一つの問題は耐性の草や虫を作り出すことです。殺虫剤では死なない虫がでてきます。それが広がると生態系が全部壊れてしまいます。借金して種や除草剤を買ったものの耐性の虫や草がでてくると思ったとおりにコットンはできません。そして倒産してインドの農民に多数の自殺者がでています。

辻:ブータンの首相と面会して直接聞いたことですが、ブータンは「オーガニック国家にする」と宣言しています。これは国会で決めたことです。オーガニック国家にするには時間がかかります。化学肥料や除草剤を使っている人もいます。今その人たちを急にやめさせるのではなくて時間をかけてそっちの方向に導いています。

テストケースとして10年前からガサ県をオーガニック県にしています。今完全にオーガニックになっています。オーガニックでもできるということがわかりました。

Q.仏教的に農薬で虫を殺すのはよくないことだと思いますがどうですか。

辻:殺虫剤は使っていないところが多いです。しかし草ならよいと除草剤は使っているところがあります。除草剤によっては川の生き物もみんな死んでしまいます。除草剤で動物たちが死ぬことまで考えていません。西の方から使い始めています。

Q.オーガニック以外の方法は知っていますか。

カルマ:「ユーリア」という化学肥料がここに政府から紹介されたことがあったことを覚えています。使い始めたら土が固くなってしまいました。いいところがないのにお金がかかってしまします。それならそんなものいらないと元の方法に戻りました。
 
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2013年08月05日

オーガニックコットン畑でインタビュー


<チモン村のオーガニックコットンについて>
インタビュー:2012年11月
文:小久保裕史

前回3月のツアーの時、辻さんとペマはオーガニックコットンについて話し合いました。最初村へコンタクトした時には種がなくてコットン栽培はできないと思いました。しかし、近隣の村に聞き山の向こうのニャスカル村に種がありました。ペマのお父さんはすぐに種をもらいに行きました。ニャスカル村では今でも自給用のオーガニックコットンを育てており、実際にオーガニックコットンの服を着ています。

ニャスカル村でもらった種だけでは足りなかったので、近くの小さな谷に住むボニンさんから種をもらいました。ボニンさんは今でも昔ながらのコットンを作っていて、2年前テレビに出て評判になりました。地域に残って伝統的農業をやることはいいことだという番組でした。政府はこういう生き方があっていいことだといっていました。

ブータンでは4月からモンスーンの時期で少しずつ雨が降り始めます。そして8月いっぱいから9月の初めまで降り続けます。今回種を播いたのは6月末でした。本来なら2カ月前の4月に播くのがふつうです。今回は種をまく時期が遅かったです。普通なら今(11月下旬)収穫期なのですが遅れています。

今回は胸から腰くらいの高さですが本当ならば人間の背丈以上になります。昔は畑のなかに立つと向こうにいる人が見えないくらい高くなりました。蕾も手のひらくらい大きくなります。それに比べて生育は悪いですが蕾は固くしっかり育っています。普通に育ち天気が良ければコットンの収穫時全体が白くまぶしいくらいです。

畑は火を放ち準備をします。しかし今年は雨季が始まっていたので燃やすことができなくて、畑にできなかった場所があります。そのため今年は実験的に小さい土地でやりましたが、来年からは広げたいです。近隣の村の人たちもとても興味を持っているので、来年からは大掛かりにできるのではないかと思います。今の倍くらいはできると思います。
  
昔コットンを育てていた時は、ものすごい量のコットンを作っていました。切り開くところから収穫までそこに小屋を作り住んでいました。収穫してここで糸を紡ぎ染色して織って着物まで全部ここで作りました。

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Q.ニャスカル村やボニンさんから譲って頂いた種はもらったのですか、それとも買ったのですか?

A.種は買ったのではなくて頂きました。

Q.この場所は昔コットン畑だったのですか?
A.以前は雑穀とトウモロコシ畑でした。その後作物は作らず草むらになっていました。そこを急遽開墾してコットン畑にしました。

Q.コットン栽培はなぜ廃れたのですか?
A.35年位前に辞めてしまいました。その頃初めて東側にも道路が登場しました。モンガルやタシガンに道路が来ると、チモン村や周辺の村の人々は労働力としてかり出されました。労働をすると現金収入が入ります。収入を得れば簡単に服が買えることを知りました。いくらコットンを作ったところで、自給にはなっても現金にはなりません。現金収入が重要になりました。そして徐々に市場経済に巻き込まれていきました。コットンを育ていく意味がなくなり忘れられてしまいました。

Q.コットンは大量の農薬を必要と聞きます。オーガニックコットンの栽培のむずかしさを感じませんか?
A.一切農薬も何もいりません。ただ今回は種を播く時期が遅かっただけです。天敵としてはねずみ、鹿があげられます。鹿は木全体を食べてしまいます。向こう側では鹿に食べられた後もあります。獣道を把握しているのでその出入り口に罠を仕掛けてあります。昔そこに小屋を建てて住んだという意味はそれも関係があります。それと古い種だとうまく育ちません。

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Q.自家採取はできますか?
A.自家採取しています。

石井:インドではコットンの種は買うものです。オーガニックはオーガニックの種屋から買います。

辻:チモン村は自給の村だから市場経済の段階が違います。ブータンの農家では遺伝子組み換えなど知りません。酵母も自給しているくらいです。

辻:単にオーガニックコットンを経済市場に出すのでは太刀打ちできません。オーガニックコットンを求める人やフェアトレードならオーガニックコットンを買いたいという人が世界中にいます。その世界のニーズとつながりながら文化を復活させていけばよいと思います。しかも経済的な基盤にもつながっていきます。

これは理想郷で夢みたいな話ですが、まだブータンならあり得るのではないかと思います。なぜならブータンは国を挙げてオーガニックに舵を切ろうと決めた国なのです。そんな国は世界中にありません。うまく利用して村の持続可能なあり方をここからモデルとして提案できればいいなと思います。


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